Column
対談

“10年後に大化けする人材”を見抜くには? いま、次世代のリーダーに求められている力

2023.09.21
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どんな人物をリーダーに選出し、いかなる方法で育てるべきなのか。

経営者やマネージャーならば誰しも、そんな悩みを持ったことがあるはずだ。幾多の先人たちが抱えてきた課題に、いまだ明快な答えは存在しない。みな試行錯誤を続けながら、やっとのことで“次のエース”を生み出しているのが実情ではないだろうか。

時代を牽引するリーダーにいま必要とされる力とはなにか。その素質の萌芽を見抜き、大木にしていくには、いったいどこに注視すればよいのか。

2018年7月19日に開催されたTeambox OFFICE MOVING PARTYのトークセッション「個人が生き生きと活躍する組織とは?」では、“育成のスペシャリスト”である3名がそのノウハウを語り合った。

【スピーカー】
・花まる学習会代表 高濱正伸氏
・株式会社プロノバ代表取締役社長 岡島悦子氏
・株式会社チームボックス代表取締役 中竹竜二

中竹竜二(以下、中竹):今日はふたりの方に来ていただきました。まず、花まる学習会代表の高濱正伸さんです。簡単に自己紹介をお願いできますか。

高濱正伸氏(以下、高濱):私は、幼児から小学生を対象とした学習塾の代表をしています。会社を立ち上げたのは25年前なのですが、それまでは留年して大学に8年間通いつつ、予備校の講師をしていました。

予備校時代に気づいたのが、「この国は『メシが食えない大人』を量産している」ということ。社会的な引きこもりは約300万人いるとも言われていて、彼ら/彼女らは何をするにも親を頼っている。なぜそうなってしまうかというと、試験とか就活とか、外部によって作られた枠組みの中だけで生きていて、“自分で考える力”が弱い人が多いからだと思ったんです。

花まる学習会代表 高濱正伸氏

1959年熊本県生まれ。東京大学卒、同大学院修了。1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。『小3までに育てたい算数脳』、『わが子を「メシが食える大人」に育てる』ほか、『算数脳パズルなぞぺー』シリーズなど、著書多数。講演会「母親だからできること」「父親だからできること」など、年間約100講演を行う。これまでの参加者は、のべ15万人以上。花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長、算数オリンピック委員会理事、日本棋院理事。

 自分で考える力というのは、なにもないところから、自分で物事の本質を掴む力のことです。なにかを解決するために必要な「線」を浮かび上がらせる「補助線を引く力」もこれにあたります。そのような力を育むには、算数ドリルや国語ドリルだけではなく、運動などの外遊びも欠かせません。経験総量がものをいうのです。

たとえば、サッカーでパスを受けるときや野球でフライを捕るときでも、補助線が見えていなかったらプレーできませんからね。花まる学習会では、そのような思考力や外遊びを重視することで、「メシを食える大人」を育むことを目指しています。

中竹:ありがとうございます。あと3時間は聞きたいくらい興味深いお話ですが、もうひとりの登壇者もご紹介させてください。株式会社プロノバの代表で、社長を育てるプロとしてさまざまな場で活躍されている岡島悦子さんです。岡島さんのところには、若手のベンチャーの社長が相談したいと常に行列を作っているような状態なんですね。

岡島悦子氏(以下、岡島):私はサクセッション・プランニングと呼ばれる仕事をしています。社長と二人三脚で、10年後や15年後の社長となる、イノベーションを起こすような人材を育てていて。やっていることはほぼ、目利きと抜擢、(修羅場的なポストへの)島流しです(笑)。会社の中では評点が低いけれど、将来大化けしそうなポテンシャル人材を津々浦々探す、ということをやっています。

専門としては企業を中心としたマネジメント層のリーダーシップ開発なのですが、領域をまたいだ組織開発や経営者支援をさせていただくこともあります。たとえばスポーツ業界や芸能界ですね。そういう業界って、まだなかなかサイエンスが入っていないケースも多いので。

「秘密基地を作ったことがあるか?」リーダー人材を見抜くキラークエスチョン

中竹:高濱さんは本日、ドルトムントの香川真司選手と対談してこられたそうですね。そのお話をお聞きしていいですか。

高濱:彼とお話しして思ったのは、香川選手は謙虚な方だなということ。彼はもともと、町クラブで信頼のできる監督のもと6年間を過ごして実力をつけたそうなんですけど、そのあとJリーグに入ったらなかなか出してもらえない日々が続いたそうです。

ただ、そこでブラジルの監督が来て実力を見出され、一気に背番号10番を背負うスター選手になるんですよね。海外に行ったあとは芽が出なかった時期もあるけれど、また監督が代わったことで活躍するようになりました。香川選手ほどのポテンシャルを持っていても、それを引き出せるかはトップリーダーによってまったく違ってくる、ということを改めて感じましたね。

中竹:それは、香川選手をきちんと見極めて使った人とそうでない人がいた、という話でもあると思うのですが、その“目利き”のポイントってどこにあるんでしょう。岡島さんはどう思われますか。

岡島:「いまがマックス」という人を選出してもダメで、10年後、15年後に化ける人を探さなければいけません。やっぱり「伸びしろがどれくらいあるか」がポイントになってきますよね。だから、その企業にとってリーダー人材に値するかを判断できるような問い、“キラークエスチョン”を考えることが重要なのではないかと思います。

株式会社プロノバ代表取締役社長 岡島悦子氏

経営チーム開発コンサルタント、経営人材の目利き、リーダー育成のプロ。
三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー、グロービス経営陣を経て、2007年プロノバ設立。丸井グループ、セプテーニ・ホールディングス、リンクアンドモチベーション、ランサーズ、ヤプリの社外取締役。経営共創基盤やグロービス・キャピタル・パートナーズ等、多数企業の顧問・アドバイザー、政府委員会メンバー、NPO理事等を歴任。ダボス会議運営の世界経済フォーラムから「Young Global Leaders 2007」に選出される。 主な著書に『40歳が社長になる日』(幻冬舎)等がある。

 もちろん、企業や業界によってその問いは違います。さっき高濱さんがおっしゃった“外遊びをさせる”という話にもつながるのですが、ある企業では「秘密基地を作ったことがあるか?」という問いをキラークエスチョンとして立てていました。それは、なにも材料を与えられていない状況から自分たちでルールを構築し、ひとつのものを作り上げる経験をしたか見極めたい、ということですね。

「飲み会や会合で幹事をやるタイプか」「祖父母と一緒に住んでいるか」などがキラークエスチョンになるケースもあります。もちろん、その問いだけで選ぶということではなくて、その問いによって選んだ人たちを競わせ、ときには外して別の人を入れたりとトライ&エラーをくり返していって、将来のリーダーを探すという感じですね。

高濱:確かに「秘密基地を作ったことがあるか」がキラークエスチョンになるケースは多そうですね。

少し前にある大学の先生から、シリコンバレーでここ30、40年の間に興った会社や消えていった会社のデータを見せていただいたんですよ。ゼロイチから成長した会社に共通していたのは「創業社長が不良」だということ(笑)。

つまり、外部が規定する生き方に縛られずに、物事をゼロイチで考えられる人を何人抱えられるかというのが、いまの時代の会社にとっては勝負なんですよね。岡島さんがやっていることは、まさにそういうことだと思う。

岡島:大事なのは、バイアスを外せる力なんですよね。いまのビジネスモデルや成功体験といったものに対して「本当かな?」という視点を持てること。それができる人を探したいなといつも思っています。

意思決定の場数をとにかく踏ませろ

中竹:いまのお話を聞いていると、リーダーになれる人材にはもともとポテンシャルがあるように思います。

でも、「うちの会社にはそういうメンバーがいない」とか「自分にポテンシャルはないけれど、これから伸ばしたい」というケースもあるはずです。そういう人たちは、どうすればよいと思いますか? もう終わりですってシャットアウトすればいいんでしょうか(笑)。

岡島:後天的にできることもたくさんあって、一番は「意思決定の場数をとにかく踏む」ことです。

10年後、15年後には、あらゆる環境がいまとはまったく変わっているはずです。正解なんて誰もわからないわけですよね。そうなったときに、Aを選んでもBを選んでも厳しいという環境で、決める力を持ってもらわなければいけない。その力を育むには、若いうちから打席に立ち続け、自分の中の“軸”を作ってもらうことが必要だと思います。

それからもうひとつは、自己効力感、セルフ・エフィカシーと呼ばれているものを高めること。自己肯定感はこれまでの自分に対しての自信ですが、自己効力感というのはこれまでに自分が経験していないこと、未来に対する自信です。難しい環境でも、やったことがないことでも、「自分ならやれるかも」と思える力を持つことが大切です。

中竹:いま、意思決定の場を増やすという話がありましたが、確かに人材育成のカンファレンスとかコーチングに行くと、最近は必ずデシジョンメイクというセッションが入っています。それくらい、意思決定というのは一人ひとりのプレーヤーにとってもリーダーにとっても、非常に重要な研究領域に入ってきたという感じがしますね。

株式会社チームボックス代表取締役 中竹竜二

1973年福岡県生まれ。早稲田大学人間科学部に入学し、ラグビー蹴球部に所属。同部主将を務め全国大学選手権で準優勝。卒業後、英国に留学。レスタ―大学大学院社会学修士課程修了。三菱総合研究所等を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督を務め、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇など多くの実績を残す。2010年退任後、日本ラグビー協会初代コーチングディレクターに就任。U20日本代表ヘッドコーチも務め、2015年にはワールドラグビーチャンピオンシップにて初のトップ10入りを果たした。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。

意思決定力を鍛えるにはやはり質より量で、場数を踏むことが大事なんですが、組織の構造上なかなかそれを実現できないことが多い。

たとえばサッカーでもボールは1つしかないですから、デシジョンメイクできる人はそのときボールを持っているひとりだけになってしまうわけです。だから、普段のトレーニングで試合に近い状況をいかにたくさん生み出せるかというのは重要ですよね。

これを企業に置き換えたとき、再現性のあるデシジョンメイクができる場というのはどうしても少ないので、その疑似体験のために我々はTeambox LEAGUEという実践型学習の場を設けています。これはうちの宣伝ですが。

SHOWROOM前田裕二も実践する、“言葉を研ぎ澄ます”習慣

中竹:少し話を変えますが、リーダーが変われば組織が変わるということは、リーダーが学ばない限り組織は変わらない、ということですよね。

リーダーはついつい教えることで精一杯になってしまって学びの時間をとれないケースが多いと思うのですが、高濱さんも岡島さんも会うたびに新しい情報を教えてくれます。おふたりは、普段どうやって学んでいるんですか?

岡島:私はなるべく、自分と遠い領域にいる人たちと話すことを意識しています。スポーツ選手や料理人、宇宙飛行士。業界は違えど一流の人たちですね。

それから、自分がハーバードのビジネススクールを出ているので、ハーバードの教授などリーダーシップ領域の人たちとは特に情報交換することが多いです。インプットする情報は、さっきの話にもあった“補助線を引く”ことで、ある程度フィルタリングしています。

高濱:書くこと、言葉を研ぎ澄ませることが大事だと思っています。たとえば私は読書するときも、本に書き込みを入れまくりながら読むんですよ。要はその本と対決しながら読んでいる(笑)。

そこで自分から出てきた言葉が、次に積み上がる、本当に“残る”言葉だと思うんです。そういうことをくり返していると、自ずと自分から出てくる言葉も強く、クリアになります。

岡島:私がいま目をかけている経営者にSHOWROOMの前田裕二さんがいるんですが、彼は本当にメモ魔なんですね。

たまに彼のインタビューを読んでいると、これ前に私が言ったじゃんみたいなことをパクられていたりするんですけど(笑)。そうやって人に聞いた話を自分のこととして消化し、言葉の感覚を研ぎ澄ませているのはさすがだなと思いますね。

中竹:あと、この前高濱さんにお聞きして面白かったのは、東大に行く子の親は、わからないことがあったらすぐに自分で調べる習慣を持った人が多いという話でした。

高濱:そうですね。塾に行くとか算数ドリルをやるといったことよりも、わからないことをきちんと調べるクセのある家の子どものほうが伸びているといいます。これは、コーチングの世界でも同じ。人間というのはやっぱり横にいる人の影響を強く受けて成長する生き物ですからね。

これからの人材に求められる、“脳内検索”に引っかかる力

中竹:いま、スポーツのコーチングの世界でもAIコーチが登場したりして、人材育成や教育というものが今後どうなっていくか、まったく予測のできない時代です。

リーダーを育成している方も、自分自身がリーダーとして組織を引っぱっている方も、さまざまな不安を抱えていると思うんですが、最後におふたりからみなさんにメッセージをいただけますか。

高濱:僕の考えはわりとシンプルで、人間の力の土台にあるのは“愛情”だと思っています。愛情がないとなにも咲かない。その上に自分で決めたことをやり抜く力や基本的な学問を身につける力といった基盤があって、そのもうひとつ上に人間力がある。

これからの時代、人間的な魅力を磨いた人は絶対生き残れます。それから、誰も手をつけていない分野で勝負する専門性も、これからは重要になってくると思いますね。

岡島:いまの時代は人生の時間軸自体が伸びていますから、これからのリーダーは長期にわたりリーダーを務めることが必要になってきます。

そう考えると、もっとも大事な資質はやはり変化を恐れない力ですよね。変化がやってきたときに、これまでの自分のスキルが効かなくなると守りに入るのは最悪。変化に適応していくという姿勢をとらないと淘汰されてしまうと思います。

それから、“モテ力”みたいなものもすごく大事だと思っていて。私は「脳内検索に引っかかる人をつくる」とよく言うんですが、なんらかの強みがあって、その分野で想起される人になれるかどうかは重要な力です。

自分の強みとか好きなものを見極めるためには、さっきの話に帰結しますが、やっぱりとにかく場数をたくさん踏むことが必要だと思いますね。

中竹:“人間的な魅力”とか“モテ力”といった言葉が出ましたが、私が今日、高濱さんと岡島さんをお呼びしたのもそれかもしれません。

お二方とも「ちょっとでも役に立つ話をしよう」とか「誰かを助けてあげよう」という思いやりがあるんですよね。これからの時代、そういうプラスアルファの気持ちがある人がますます求められていくのではないかと思っています。

執筆:豊城志穂 写真:鈴木智哉 編集:中薗昴
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