トップオススメ記事「成長とは何か」を、脳神経科学やITは解き明かせるか?――枝川義邦×矢倉大夢

「成長とは何か」を、脳神経科学やITは解き明かせるか?――枝川義邦×矢倉大夢

「成長とは何か」を、脳神経科学やITは解き明かせるか?――枝川義邦×矢倉大夢

対談 2019.03.27

「成長とは何か」を、脳神経科学やITは解き明かせるか?――枝川義邦×矢倉大夢

「リーダーが変われば組織が変わる」

チームボックスではこう表掲し、リーダー・マネージャー育成のためのサービスを提供してきた。

ではそもそも、極めて漠然とした概念である「成長」とは、科学的な視点から見るとどんなことが起きている状態なのか。その状態を定量的に計測すること、再現性のある「成長のメソッド」に落とし込むことは可能なのか。

脳神経科学を専門とする早稲田大学の枝川義邦教授と、チームボックスの学生CTO矢倉大夢が、科学的・技術的な視点から人の成長について議論した。

脳神経科学の進歩により、脳の状態を“測定”できるように

——まず、枝川教授に伺いたいことがあります。意思決定やリーダーシップといった、いわゆる「リーダー・マネージャーに必要な要素」があるかを、現代の脳神経科学ではどれくらい解析できるのでしょうか?

枝川:いまは、リーダーシップや意思決定、モチベーションなどの心理学や認知科学が扱ってきた分野を、脳神経科学でも徐々に扱うようになってきました。

これには、さまざまな機器や手法を用いることで、脳の働きを可視化できるようになってきたことが大きく影響しています。脳神経科学領域の研究でも、特に脳科学分野の研究は、現在のようなスタイルで進められるようになって20~30年と学問分野としてはまだまだ若いですが、ここ最近の進歩にはめざましいものがあります。

早稲田大学 研究戦略センター教授(早大ビジネススクール兼担講師) 枝川義
1998年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、博士(薬学)。2007年早稲田大学ビジネススクール修了、MBA(経営学修士)。同年早稲田大学スーパーテクノロジーオフィサー(STO)の初代認定を受ける。脳の神経ネットワークから人間の行動まで、マルチレベルな視点による研究を進めており、経営と脳科学のクロストークを基盤とした執筆や講演も行っている。著書に『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)、『記憶のスイッチ、はいってますか』(技術評論社)、『タイプが分かればうまくいく!コミュニケーションスキル』(共著、総合法令出版)などがある。

——「脳の状態を測定できるようになった」という話が出てきましたが、具体的にどういった物質を測定することで、どういう状態がわかるのでしょうか?

枝川:現在、ヒトの脳の測定について主流になっているのが、脳内の血流変化の分布を調べるものです。血流が高まっている場所の近くでは神経細胞の活動が高まっているはずだ、という考えから、血流の変化を調べると脳の活動性を調べるのです。

このようなことに加えて、脳内の物質の量やその物質がもつメッセージの伝わり方の変化についての情報も加味して、脳の働きを説明することもできます。

たとえば脳の中には、ドーパミンという神経伝達物質があります。ドーパミンはモチベーションを引き起こすキーファクターになっていて、これを報酬と感じる神経ネットワークがあります。モチベーションは「あれが欲しいから、○○をしよう」という行動を起こすスイッチのようなものと考えるとよいでしょう。

ドーパミンが情報を伝えると、それを受け取る役割を担った細胞が働き出します。情報のバトンタッチをしていき、サーキットを作るのが神経ネットワークです。神経ネットワークが働くことで、モチベーションが高まる仕組みになっています。

ただし注意していただきたいのは、あるひとつの現象についても脳では複数の物質や仕組みが協奏していることが多いので、ある特定の物質だけを取り上げて、「こういう物質が増えたから、この現象が起こる」という断定はできないということ。説明しきれない領域が絶対に残ります。

たとえばリーダーシップには、外向きに広げていくタイプとか、内向きのタイプとか、いろいろな種類があります。そうすると、喜びを感じるとドーパミン系、燃え上がるような気持ちを持っていたらアドレナリン系、人との関わりはセロトニン系といったように、いくつもの仕組みが複合的にからんでくる。物質単体での説明はつかないわけです。

 

再現性のあるモデルをつくることが、研究者に求められている

——一方で矢倉さんは、リーダー・マネージャーの持つ要素をエンジニアリングで可視化しようとしています。たとえば「TB Scan」は、強い組織に欠かせない独自に設定した33の要素をスコア化し、組織の現状を明らかにするツールです。この要素はどうやって決めたんですか?

矢倉:これらの軸は、教育学や行動社会学といった領域から持ってきています。正直なところ、「成長とは何か?」についての明確な解は、我々のなかにもありません。ですが、解が存在しないなりに決められるものを決めて、その内容を世の中に対してフィードバックすること自体に大きな価値があると思っています。

株式会社チームボックス CTO 矢倉大夢
中学1年でプログラミングを始めて以降、アルゴリズム・セキュリティに関する国際大会での入賞、未踏プロジェクトでの採択など、幅広い領域で活動する。コンピュータによって「人の学びに再現性を持たせられるのか」という点に興味を持ち、大学入学と同時に株式会社チームボックスに参画。プロダクト開発だけでなく、「学び」や「コミュニケーション」に関わる研究開発も行う。現在、筑波大学に在学しながら、国立研究開発法人でも研究に携わるなど、組織の枠を超えたキャリアを実践中。

枝川:脳神経科学にしろエンジニアリングにしろ、それぞれで定量化できるような手法を提示して、アウトプットをすり合わせて成長の定義にすることが、いま、私たちにできることですね。

研究者に期待されているのは、人の成長において再現性のある「モデル」をつくることだと思うんです。「教科書どおり、レシピ通りにつくったら同じものができる」ということが、究極のモデル化と言えます。

その方向へ向かうことは、脳神経科学研究が目指しているもののひとつでもありますし、チームボックスさんの考えているビジョンの究極形にもなるんじゃないかと思います。

矢倉:そうですね。モデルがあることで「こういうアプローチをしたら良くなりそうだよね」とか、「この手法は駄目かもしれないね」というのが、より検証しやすくなりますから。逆に、モデルを起点にして、新しいアプローチが見つかる可能性も生まれてくるでしょうね。

——モデルをつくっていく上で、現状ではどういった情報が不足しているのでしょうか?

矢倉:たとえばチームボックスが提供しているサービスに限定すると、リーダーの成長に必要な観点と、リーダーをサポートしているコーチに必要な観点を、より深いレイヤーでデータ取得して分析する作業が必要になっていくと考えています。

チームボックスがやっていることは、脳科学と比べると一歩手前のレイヤーにいるんじゃないかと思っていて。どういうことかというと、僕らは、意思決定に関する行動や、その行動結果をまわりの人がどう解釈しているかというデータを取って分析することによって、マネジメントの状態を可視化しようと試みているんです。

より先のレイヤーに行けば、それこそ本人の脳や皮膚などから直接的に情報を取得して、分析に用いることが実現しうるかもしれない。それらの関連性をどう紐づけていくかという手法が確立できれば、チームボックスがやろうとしていることと脳神経科学が目指すことの方向性は近くなるのかなという気がしています。

枝川:モデルをつくられている方は、「こういうエビデンスがあるから、パラメーターをこう変えてみよう」という流れで研究を進めるのが一般的でしょう。矢倉さんは反対で、実際に対象を観察して自分でパラメーターを取ってくるアプローチをされているのが面白いですよね。そういうアプローチを採っているのはなぜですか?

矢倉:チームボックスが現実世界のフィールドで実際にサービスを提供していて、かつ相手がたくさんいることが強みだからです。もうひとつは、深層学習を用いて課題を解こうとすると、取ってきたエビデンスをそこに入れこむほうがむしろ難しくて、ボトムアップでやるほうがアプローチとしての親和性が高いケースが多いんですね。

むしろ、その結果をエバキュエーションして、他の分野とどれくらい一致しているのかを後から検証するためにエビデンスを使うほうが一般的かもしれないですね。

 

成長を可視化できれば、マネジメントスキルはコモディティ化する

——人の成長のモデル化が進んでいけば、今後はその結果を一般の方々が活用するフェーズへ移行してくるはずです。まずは、どんな目的で使われると思いますか?

矢倉:さまざまな用途があると思いますが、そもそも「モデルについて知ること」そのものに大きな価値が生まれるはずです。

たとえばアンガーマネジメントは「なぜ怒るのか?」というモデルがあるからこそ、メソッドによる介入ができるわけですよね。つまりモデルを知ること自体が、行動をよくすることに結びつくんです。

枝川:「知らないからできない」ということは多いですからね。そういう意味では、サイエンスとエンジニアリングは別領域ではなく、2つをセットとして考えていくことが大切でしょうね。モデル化するところまでがサイエンスで、そこから出てきたものを組み合わせて現実の問題を解決するものがエンジニアリングですから。

矢倉:「知ること」の先にあるのは、「再現性」だと思っています。たとえば、「孫正義さんしかできないと言われているマネジメント業務の70%が、実は他の人でもできる」ということが明確に定量化されれば、マネジメントスキルを習得するという行為そのものに再現性が生まれるわけです。

枝川:70%も孫さんになれるって、夢がありますね(笑)。

矢倉:そういう方向にいくと思っています(笑)。だからマネジメントを学ぶことは、よりコモディティ化する。つまり、職人技ではなくなるんです。

枝川:不確定要素が起きた場合に、課題を目に見える形にして解決策を練るのがマネージャーじゃないですか。だから、定量化によるアプローチは十分に可能なはずですよね。マネージャーに必要な要素が、将来的にひとつでもモデル化できたら面白いですね。

反面、リーダーはマネージャーと比較するとモデル化が難しい。より外れ値のパターンが多いというか、「これができていればリーダーだ」という指標をわかりやすく示すのはなかなか難しいでしょう。

矢倉:そこは本当に面白いと思っていて、いろいろな要素が平均的に高い人がいいリーダーかというとそうじゃないんですよね。むしろ、スキルが尖っているリーダーのほうが、よりリーダーシップを発揮して成果をあげられるケースが多いと思います。

そう考えたとき、僕たちが現状やっているアプローチだけでその要素を解き明かすのは、まだまだ厳しいのかなと。モデル化するための変数をどう変えていけば、リーダーとしての外れ値に対応できるかを考え続けているところです。

 

レッテルを貼るための技術ではなく、成長の方向性を示すための技術

——人間の状態を可視化するとなると、どうしても倫理的な問題が出てきます。「自分のスキルや考えを誰かに知られてしまうなんて、気味が悪い」と感じる方も出てくるのでは?

枝川:おっしゃるとおりで、さまざまな場で脳についての話をすると、よく「考えていることを丸裸にされちゃうんじゃないの?」というご質問をいただきます。10年くらい前だと、「そんなことないですよ」という感じでしたが、最近はそうでもなくなってきました。

たとえば現在、人が脳内でイメージしている映像を抜き出して画像化できる研究が進んでいます。まだ解像度が粗いという問題はありますが、改善されるのは時間の問題でしょう。

矢倉:深層学習においても、医学や生物学などのバックグラウンドがない分、倫理面については無法地帯になりつつあるように思います。たとえば、顔写真から犯罪者かどうかを見分けられるという技術もあります。

枝川:それは脳神経科学にもあって、脳を見ると、将来犯罪者になるかが高確率で分かるって言いますね。

——そこまで実現できているんですね。となると、人の状態を可視化できるようになった未来では、「どんな技術を使うか」だけではなく「技術をどう倫理的に使うか」という価値観そのものも、アップデートしなければならない。

枝川:その人にリーダーとしての素養がない場合に「リーダー向いていないね」と言ってしまうことは簡単なわけです。でも、そのファクトが見えるようになった上で、その人の将来とどう向き合っていくのかが課題になってくるはずです。

矢倉:倫理の課題があるからこそ、人の適性を判断するというよりも、「その人をどう伸ばすかを考えるためのツール」として使うことが、僕は一番大事だと思っています。チームボックスの業務においても、技術をサービスに落とし込む際に「どんなインターフェース設計をすれば、より人の成長につながる可能性が高まるか」は非常に考えますね。

たとえば、「あなたは、○○があまりできていません」ということを、場合によってはコンピューターが言ったほうが効く場合もあるし、人が言ったほうが効く場合もあります。そういった感情設計も含めたインターフェースの構築が、今後はより重要になってくるはずです。

枝川:生物は基本的に、すべてにおいて相対評価をしているじゃないですか。だから当然、同じことを言われたとしても、受け入れられるときと、受け入れられないときがありますね。人間から言われるよりも、コンピューターから「あなたはこうですよ」と言ってもらったほうが、素直に受け入れられるという研究結果もありますから。

——「人の状態を可視化できる」ようになるからこそ生じる課題や、新たなインターフェース設計の手法、非常に興味深いですね。今回の対談を通じて、研究領域は違うものの、おふたりは同じ方向性を向いているように感じました。

矢倉:お互い、最終的なゴールが近いですからね。その根底にあるアーキテクチャというか、「どう研究していくべきか?」という方向性が近いことは、すごく面白いなと感じました。

枝川:考えていることやビジョンの方向性が一緒ですし、歩いているペースも似ていますよね。もちろん、それぞれの研究している領域は違いますが、上手に足並みを揃えて、ともに成長していけるんじゃないかという期待が高まりました。

 

執筆:中薗昴 写真:鈴木智哉

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