トップオススメ記事なぜ強いチームには「心理的安全性」が必要なのか?──及川卓也×國友尚【前編】

なぜ強いチームには「心理的安全性」が必要なのか?──及川卓也×國友尚【前編】

なぜ強いチームには「心理的安全性」が必要なのか?──及川卓也×國友尚【前編】

対談 2018.09.28

なぜ強いチームには「心理的安全性」が必要なのか?──及川卓也×國友尚【前編】

心理的安全性を高めると、チームのパフォーマンスと創造性が向上する。

これはGoogleが2016年に発表した労働改革プロジェクト調査結果の一説だ。心理的安全性とは、チームのメンバー全員が気兼ねなく発言でき、本来の自分を安心してさらけ出せる状態を指す。では、なぜこの状態を担保できていることが、組織の生産性向上には必要不可欠なのだろうか。

MicrosoftやGoogleでエンジニア組織のマネジメントに携わってきた及川卓也氏と、Yahoo! JAPANやKDDIにて新規事業のマネジメントを手掛けてきたチームボックス Chief Experience Officerの國友尚が語り合った。

ネガティブなフィードバックは「可能な限りすぐ返す」が基本

──及川さんはこれまでMicrosoftやGoogleといった外資系IT企業でプロダクトマネージャーやエンジニアリングマネージャーを務めてきましたが、チーム内の「心理的安全性」の重要性を感じる場面はありましたか?

及川:ありましたね。順を追って話すと、エンジニアリング組織が成長し続けるには、前提として、メンバー全員にとって納得感のある評価制度が必要になります。ここで言う評価とは給与や賞与、昇進のためだけに行われるものでなく、成長してもらうために必要な「フィードバック」の意味合いで捉えてください。

メンバーに対して適切にフィードバックできる状態をつくるには、「上司や同僚に対して、ネガティブなことも含めて正直に話せる『心理的安全性』が必要」というのが私の考えなんです。

そして、このフィードバックはなるべく短期的なスパンで行われる必要があります。1年に1回とか半年に1回では、ダメなんです。

及川卓也(おいかわたくや)

株式会社クライス&カンパニー 顧問

早稲田大学理工学部を卒業後、日本DECに就職。営業サポート、ソフトウェア開発、研究開発に従事し、1997年からはMicrosoftでWindows製品の開発に携わる。2006年以降は、GoogleにてWeb検索のプロダクトマネジメントやChromeのエンジニアリングマネジメントなどを行う。2015年11月、技術情報共有サービス『Qiita』などを運営するIncrementsに転職。17年6月より独立し、プロダクト戦略やエンジニアリングマネジメントなどの領域で企業の支援を行う。17年9月、ヘッドハンティング・人材紹介を展開するクライス&カンパニーの顧問に就任。

──でも、日本企業はこれまで期ごとの評価が主流でしたよね。あれはあまり良くないと?

及川:その手法は欠点があって、言い渡された結果が本人にとってサプライズになるケースが多いんですよ。そして結果が悪いものだったときに「え! そんなふうに見られていたとは知りませんでした」となってしまう。つまりこれは、上司とメンバーが適切にコミュニケーションできてない状態なんですね。

本来ならば、メンバーが会社の求める期待値に達していないならば、その人の事情を聞いて上司が一緒になってその問題を解決していく必要があります。だから本当はネガティブなフィードバックほど早めに言わなければならないんですね。

──どのくらいのスパンで伝えていくべきなんでしょうか?

及川:可能な限り早い方がいいです。週に1回なんかでも頻度が足りなくて、できれば気づいた当日や次の日くらいに話した方がいい。だって、言う方も言われる方も、一週間も経ったら何をやったかなんて忘れているわけですよ(笑)。リアルタイムに近い状態で「ちょっといい?」と話した方がいいですね。

國友:チームボックスが提供する企業の経営者や経営幹部へのトレーニング、また彼らのトレーニングに寄り添うパーソナルコーチにコーチングを施すなかで、フィードバックは気づいた段階ですぐに返すということを徹底しています。

どんな組織においても、取り返しのつかないところまで放置してからフィードバックしてしまうと、本人も実感できないばかりか、チームや組織としても幸せにならないんですよ。それに、評価制度が3ヶ月に1度、半年に1度というスパンだと、どうしても次年度の給与はいくら、今期の働きに対する賞与はいくら、というお金の話に終始してしまいがちです。フィードバックを受ける本人も、組織や上司の言うことにただ従っていれば評価されると思ってしまうので、内省する機会がなくなってしまう。

だからこそ、小さなことでも気づいた段階でフィードバックすることを組織として習慣化させていくことがすごく大切です。半年や1年ごとの評価制度でのフィードバックは、人間が忘れる生き物だという前提に立つと、評価直前の事象に強く影響されやすくなってしまいます。

及川:それはどうしても起こりますよね。それから、上司と部下の間だけではなくて、できれば同僚同士でもフィードバックし合えると非常に良いですよね。

日本人はポジティブなフィードバックもなかなか伝えられない

──どうやったら職場のメンバーに対してざっくばらんにフィードバックを言える雰囲気を生み出せるんでしょうか? 今回のテーマである「心理的安全性」と関係する重要な要素なのかなと思って。

國友:チームボックスでは一貫して「まずは良い点について具体的なフィードバックを伝え、次に気にかかった点について具体的なフィードバックを伝える。そして次に取り組むべきことを対話する。」というフレーミングを推奨しています(Good → Bad→Next)。

実は経営者をはじめとした上位役職者って、ポジティブなことフィードバックできていないことが多いんです。自分が過去にできたことはメンバーもできて当たり前だと、人として驕りを感じているところもあるかもしれない。

しかし上位役職者のポジティブなフィードバックには、メンバーを躍動させ続ける可能性が秘められています。だからこそ、フィードバックの機会や頻度を増やす必要があります。そのうえで、「じゃあより良くするために次はどうしようか」という問いかけや対話を重ねていく、ということを、われわれのトレーニングを通じて促しています。

國友尚(くにともたかし)

チームボックス Chief Experience Officer/慶應義塾大学研究員

2018年3月より現職。チームボックス以前は、放送、インターネット、通信業界にて、数千万人が利用するサービス開発、コンテンツ開発を行う。ヤフー株式会社、KDDI株式会社では部門長として組織横断プロジェクトを率い、数多くの新規事業を手がける。研究者としては日本創造学会論文賞受賞(2017年)、イノベーションデザイン、ヒューマンシステムデザインにおける独自の手法は国内外から注目を浴びる。

及川:ああ、それは効果がありそうですね。確かに、日本人は「フィードバックをしてください」と言われるとネガティブなことばかり話してしまう傾向はあると思っていて。要するに弱み潰しをしてしまいやすいんですね。

もちろんそれも重要ではありますが、本来フィードバックって悪い部分を改善するためだけではなくて、良い部分を伸ばすためにもあるんです。その点を忘れてはいけない。

國友:ジョハリの窓でも示されているように、その人のみが持っている特徴であっても、本人が無意識的に振る舞っている場合は自らの強みだと自覚していないことも多いです。

僕は以前テレビの現場で仕事をしていたことがあるのですが、夢を抱いて芸能活動するタレントが、ファンから「可愛い」「面白い」という声を浴びはじめると、1~2ヶ月で劇的に変わる瞬間を数多く目にしてきました。それまでは家族や友人たちに「成功するはずがない」と言われ続けていたのに、ポジティブなフィードバックを受け続ける機会を得たことで、本人の自信が確固たるものになったんです。

ビジネスの世界でもこれは同じで、「あなたのこういうところに助けられている」というポジティブなフィードバックを受けて嫌な気持ちになる人はいない。他者からのフィードバックによって、自身の気づけていない自己を認識するというプロセスを積み重ねることが大事です。それらが積み重なることで初めて「これは自分ならではの良い特徴なんだ」と認識できるようになります。

──そう考えると、「フィードバックは改善点を伝えるもの」という先入観を捨てることも、意見が言いやすく心理的安全性の高い組織を生み出すには重要なのかもしれませんね。

メンバーを糾弾せず、問いかける。マネージャーに求められる“傾聴”の姿勢

──そういった組織文化をつくるには、マネージャーによる適切なマネジメントも欠かせないですよね。及川さんがこれまで勤めてきた外資系IT企業では、どのような手段でマネージャーはそうしたスキルを身につけるケースが多かったですか?

及川:そういった企業では、とりわけミドル層のマネージャーが組織力をつくるうえで重要だと分かっているので、マネージャー教育はかなり熱心に行われていました。

適切にフィードバックを行うには、マネージャーがメンバーの意見をヒアリングしたり、逆に意見を伝えたりするスキルも絶対に必要になってくるじゃないですか。そのスキルを身につけるようなトレーニングも実施していました。

──どういったトレーニングをするんですか?

及川:例えば、1on1ミーティングのロールプレイングです。1on1ってそれなりに技術が必要なので、新任マネージャーがいきなりやってもうまくできないんですよ。だから、役者の方に来てもらって色々なシチュエーションの1on1を演じてもらい、それを見て参考にしながら、各部署のマネージャーが上司役と部下役になってかわりばんこにロールプレイするんです。

──知識として学ぶだけではなく、ロールプレイングをするのが必要なんですね。

國友:どうしても、頭の中で知識として理解しているつもりでも実践は難しいんですよね。「わかる」と「できる」は違う。教科書通りにやっているつもりでも、人を相手に実践する機会となると全くできていないケースがほとんどです。

例えば、部下との1on1でそのほとんどをずっとしゃべり続けていたマネージャーが、それを課題だと認識して、コーチング技術を学んだとしましょう。いざ職場で実践してもらい、どれくらい改善しましたかと問いかけると「まだまだですが、私が話していた割合は半分くらいになりました」と感覚的に答えるケースが多々見受けられます。

私たちチームボックスのトレーニングでは、1on1の映像を撮影したのちに映像解析をかけるというものがあり、自らの振る舞いが映し出されたその映像を見せると多くの人がハッとされます。「十中八九、自分が喋っていました。できていませんね……」と。自分で自分の振る舞いを振り返ることの難しさでもありますが、これも「わかる」と「できる」は違うという一例です。

正しく自分自身を振り返ることを習慣化するためにも、他者からフィードバックや、技術を活用した客観的なフィードバックを重ねていき、自己認識のギャップを埋めていくことが非常に重要です。

及川:僕は、現在は人の話をよく聞くタイプの人、グッドリスナーだと言われることが多いです。けれど、約20年前にMicrosoftでマネージャーになったばかりの頃は全く違ったんですよ。

最初はそういったトレーニングを受けていなかったので、数人の部下がチームに加わってくれてからも「自分がやったほうが早い」と考えて適切なマネジメントができていなかったと思います。みんな優秀なメンバーだったので「勝手にやってください」という感じになっていました。

でも、数年経ってからMicrosoftはマネージャー教育に力を入れるようになり、その教育を受けてからは、「これではダメだ」と気づきましたね。

──Microsoftで受けたマネージャー教育のなかで、重要な教えを挙げるならば何ですか?

及川:いくつもありますが、まずは「自分の判断を相手にいきなりぶつけないこと」を学びました。なぜなら、マネージャーが勘違いしていることが結構あるからです。

これに関しては失敗談があって、昔、1on1で相手がメモを持ってこなかったことがあったんですよ。上司とのミーティングなのに何も書かないのは良くないと思って「どうしてだよ」と言ったら「これにメモをします」と言って部下がガラケーを取り出したんです。「ああ、失敗した……」と思いました。会話の内容を記録できるのならば、別にガラケーでメモを取ったって構わないわけですよ。

──及川さんでも、そんな失敗経験があるんですね。

及川:だから、マネージャーの考えだけで決めつけるんじゃなくて「何も書くものを持ってないけれど、大丈夫ですか?」と聞くだけでだいぶ違うんですよ。いきなり「メモを持ってこないのはどうして?」と問い詰めてしまったら、そこで関係性がギクシャクしてしまうので、ダメなんです。

──心理的安全性が失われてしまうわけですね。

及川:もし本当に何も持ってきていないのだとしても、そこで感情的になってはいけなくて。「本人がその行動に対して課題を感じているか」を確認することが大事なんですね。感じているならば、どう改善するかを本人と一緒に話した方がいいです。

例えば今の私だったら「これからの30分で大事なことを話すかもしれないし、2人で決めるべきことが出てくるかもしれない。覚えておける? 大丈夫ですか?」と聞いてみるかもしれないですね。

──そうして、本人の気づきを促すわけですね。相手の意見や行動を大事にしたうえでコミュニケーションすることも、心理的安全性を生むためには必要なのかもしれないですね。

及川:そう思います。それに、部下との世代差がある場合には、マネージャーの考えが間違っていて部下の考えが合っている場合もたくさんあります。だからこそ、相手の意見や行動を尊重して心理的安全性をつくることは、プロジェクトを成功させるためにも重要です。

マネージャーは過去の経験をもとに「あれをやれば成功する。これをやったら失敗する」という推測をすることが多いですが、もしかしたら時代が経ったことで技術が進歩して、以前はできなかったことが今ならできるかもしれないですよね。つまり、必ずしもマネージャーの経験則は正しいことばかりじゃない。

そんなときに若いメンバーがマネージャに対して気軽にフィードバックできる状態をつくっておかないと、「○○で実現できると思います」という意見すら挙がってこなくなってしまう。プロジェクトはおそらく失敗しますよね。

國友:マネージャーも人間なので、過去の成功体験が強烈なバイアスとして残ってしまって、そのバイアスに考え方が引っ張られてしまうことはありますからね。

チームボックスでは「アンラーン(Unlearn)」という標語を掲げていて、これは自身や組織の成功体験に縛られるのではなく常に学びほぐさないといけない、ということを意味しています。学びほぐすヒントをくれるのは、自分よりも経験の浅いメンバーからのフィードバックであることも多いです。

一般的には、フィードバックというと上司が部下にするものという先入観がありますが、部下も上司に常日頃から自然にフィードバックできる状態こそが健全なんですよね。

さっき、1on1の際に自分ばかり喋っていたマネージャーのエピソードをお話ししましたが、傾聴だけにこだわるのではなく、時と場合に応じてコーチングであったり、ティーチングであったりを使い分けることが大切だと思います。

アドバイスを求めて1on1に来たのに、上司が喋らずに内省ばかりを促されていても部下は不安になりますからね。理想はあくまで、どんな内容の話であっても「対等な関係で話し合う」環境を整備することなんです。

その環境づくりをサポートするために、チームボックスではマネージャの姿勢や振る舞いに対するフィードバックをメンバーから毎日集めて数値化する「Flica」というWebツールを提供しています。対等な関係性で対話ができる環境を生み出せるための仕組みづくりにも尽力しています。

問題を起こした人ではなく、問題そのものにフォーカスする

及川:それから、心理的安全性が高くお互いにフィードバックしやすい組織をつくるうえでは「問題を起こした人ではなく、問題そのものにフォーカスする」というのも大事ですね。

近年、アジャイル開発という手法が流行っていて、その手法のなかでは各スプリントを振り返るためのレトロスペクティブミーティングが行われます。ミーティング内では各メンバーがスプリントのKPT(Keep, Problem, Try)を発表していきますが、そこでも必ず守るべきは「人の攻撃をしないこと」なんですよね。

要するに、「○○さんが問題を起こした」ということを糾弾するのではなく、「誰がやってもこうなっていた可能性がある。どう改善すべきかを全員で考えよう」という姿勢で挑むこと。

日本人は「人ではなく問題に向き合う」というのを苦手にしている傾向はあって、それは「ディベートの文化がない」のが理由として大きいと思っています。

ディベートをする場合には、対立する意見を持った者同士が別々のチームに別れて、チーム同士で討論をします。そのとき、相手の人格を否定するのではなくて、言っていることに対してロジカルに否定するんですよ。欧米では学生の頃からディベートをする機会が多いので、そのトレーニングを積めているのはかなり大きいと思っていて。

だからこそ日本では意識的に、チームでプロダクト開発をする場合には、「『問題そのもの』と『問題を起こした人』は全く別ものであって、フォーカスすべきは前者なんだ」というファシリテーションを徹底していくことが必要なんでしょうね。それができて初めて、正直に全てを話せる状態が生み出され、チームの文化が醸成していくんだと思います。

國友:KPTのフレームワークも「Good→Bad→Next」のフレームワークも、共通しているのは良い事象も悪い事象も全て受容することなんですよね。事象を受容したうえで、次に何をすべきかをチーム一丸となって考えていく。

良い事象、悪い事象の全てが表に出ている状態は、非常に喜ばしいことです。誰かの胸のうちに留まっているのではなく、表面化して共通課題とすることができるからこそ、今起きている事象に対してチームとしてどんな行動をとるか考えられるわけです。ありとあらゆる意見や考えが出てくるのを健全なものだと捉えて、その組織風土をキープし続けるために振る舞うことはリーダーがまさに求められていることのひとつだと言えます。

──では、「問題そのものにフォーカスする」というマインドを全員が持つためには、何を大切にすべきだと思いますか?

國友:ゴールです。組織やプロジェクトが掲げる「世の中に対して提供したい価値」を明確にした上で、メンバー個々人が自発的にゴールを作り出すこと、そのゴールをほかのメンバーに共有すること、そのゴールをメンバーに共感してもらうことが大切です。ゴール設定、ゴール共有、ゴール共感ですね。

そして実行フェーズでは、小さなサイクルの中で振り返りとフィードバックを行い、ゴールのValidation(妥当性確認)、Verification(検証)を確認していくことが大事です。

テクノロジーの進化により変化がより激しく世の中で、お客様にどこよりも早く、どこよりも価値あるプロダクトやサービスを提供するためには、エラーや課題を察知した人が、素早く良質な問いを立てる力が求められています。問いや課題を組織として見過ごすことなくしっかりと受容して、唯一正しい解というものがない中、より良い解を求めて一歩をみんなで踏み出すことが必要になってきていることを感じています。

及川:そう考えると、良いプロダクトやサービスを生み出すうえでも、メンバーが心理的安全性を保てる状態をまず初めに作る、というのはやはり重要ですよね。間違いなく。

執筆:中薗昴 写真:瀬野芙美香

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