Column
対談

働く女性が自信をもてる機能的で美しいバッグを作りたい。実体験を起点にしたモノづくり

2025.08.19
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チームボックスの推進する女性リーダー育成プロジェクト「Project TAO(プロジェクト タオ)」。

社会や組織の変化を恐れず、生き生きと活躍できる女性リーダーの輩出促進を目的とした取り組みです。

「TAO」に込められた意味のひとつは「道」。私たちが進むべき道を学ぶケーススタディとして、リーダーシップを発揮する女性にお話を伺い、

2つ目の意味である「先達からのタスキがけ」として次世代へとバトンを渡します。

今回は、FUMIKODA(フミコダ)代表・幸田フミさんにお話を伺います。

「働く女性に、自信を持って持てるバッグを届けたい」との想いからFUMIKODAを立ち上げ、機能美とサステナビリティを追求したモノづくりに挑戦されています。

NYへの留学、創業のきっかけ、自分基準の物差しを忘れないという価値観を語っていただきました。

FUMIKODA 代表取締役CEO / クリエイティブディレクター
幸田 フミ 氏
デザイナー、著者。 NYパーソンズ大学卒業後、現地のマーケティング会社に勤務し、大手ブランドのウェブサイト構築などを手がけた。 帰国後ウェブコンサルティング会社ブープランを創業。 FUMIKODA:https://fumikoda.jp/

働く女性のバッグがないなら自分が作ればいい。FUMIKODA創業ストーリー

瀬田 千恵子(以下、瀬田):幸田さんは働く女性のためのバッグブランドである「FUMIKODA(フミコダ)」を主宰されています。どういった経緯で立ち上げたのでしょうか?

 

幸田 フミ(以下、幸田氏):仕事をしているときに、バッグの悩みがつきなかったことがはじまりです。大量のプレゼン資料やパソコン、ガジェットなどの重い荷物を入れられる、機能的でデザインのいいカバンがどこにもない。そんな悩みがブランドを立ち上げるきっかけになりました。

当時、私はWeb系の会社を経営していて、営業活動もしていました。いつもバッグに大量の荷物を詰めていましたが、ときには夜に会食やレセプションに出ないといけない日もあります。荷物がたくさん入ったビジネスバッグで会食に行くのも気が引けて、一度帰宅してバッグを取り換えることもありました。

また、あるときは気合いを入れてハイブランドのバッグで出かけようとしたら、雨が降り始めて、慌ててカバンの中身を入れ替えるなんてこともありました。

その度に「なんで、こんなことしているのだろう?」と思っていたんです。ストレスなくビジネスにも使えて、スマートなデザインのバッグを探し続けていました。

そんな話を友人にしたら、「ないなら自分で作ればいいじゃない?デザイナーでしょ?」と言われました。実は私はNYでウェブデザイナーをしていたことがあったんです。

そう言われると、確かにそうだと思ったんですよね。この悩みを抱えている働く女性は私だけじゃないはず。事業にしてみようと決めました。それまでモノづくりやファッション業界にいた経験はなかったのですが、自分としては自然な形でモノづくりの世界に入りました。

 

瀬田:とても素敵な経緯ですね。仕事バッグに対する悩みについては、私もあります。以前、人材系企業で営業していたときは、1日に何社も飛び込みで訪問するのでたくさんの資料やガジェットを持ち運んでいました。合皮のバッグを使っていたのですが耐久性が低く、すぐ傷んでしまったり。トート型のバッグだと雨の日に資料が濡れてしまったり。

現在でも、私は週の半分くらい出張に出ているので、泊りがけの仕事のときはキャリーケースを転がしながら、リュックを背負っています。たくさんの荷物をコンパクトに持ちたいという気持ちはとても理解できます。

 

幸田氏:共感していただけて、うれしいです。軽くて肩からかけられる、雨の日でも使えるバッグがいいという観点で探すとメンズのバッグになってしまいます。でも、私は持っていることで自信が持てるバッグがほしいと思ったんです。世の中にないなら自分で作るしかない!と思いました。

「私がやりたいのはこれだ!」学校を退学して片道切符でアメリカへ

瀬田:きっかけはお友達の一言でしたが、すぐ行動に起こす行動力が素晴らしいですね!

もともと、やりたいことがあったら、すぐ動くタイプなのでしょうか?

 

幸田氏:そうですね。迷いながらも、やりたいと思ったことはだいたいやってきました。

 

瀬田:ニューヨークで働いていたのも、ご自身で決断して行かれたんですか?

幸田氏:そうです。幼い頃から漠然とデザイナーという仕事に憧れがありました。でも、両親は堅い考え方だったので、アート系の仕事は不安定だと言われて、理系の高専に通っていたんです。

でも、やはり自分のやりたいことと違うと感じていたときに、グラフィックデザインに出会いました。その瞬間に「これだ!」と思いました。高専は5年制の学校で当時4年生だったのですが、退学してアメリカに飛んでしまったんです。

 

瀬田:すごいですね。ご両親には反対されなかったんですか?

 

幸田氏:両親は海外に行ったことがなく、賛成はしてもらえなかったですね。お金も出してもらえなかったので、日本で3〜4カ月アルバイトをしてお金を貯めて、片道切符でアメリカに行きました。私自身、それが初めての海外でした。

 

瀬田:ニューヨークで道を切り拓かれたんですね。

 

幸田氏:ニューヨークではパーソンズという美大に進んだのですが、まずは英語を習得するために語学学校に入りました。そして、パーソンズに入学ができることが決まって、両親に頭を下げて「学費を出してください」とお願いしました。

けっして裕福な家ではなかったですが、学費を出してもらうことができ、美大を卒業して就職しました。最終的には両親も喜んでくれましたが、当時はとても心配されて泣かせてしまいました。いまでも罪悪感はあるので、元気なうちに親孝行しないといけません。

 

瀬田:今のお話を聞いて、自分で実現したいことを貫く力をお持ちだと感じました。これまでTAOでインタビューしてきた方に共通しているのは、人生に対しても自分らしいリーダーシップを発揮していることです。そして、共通点は、決断の前の迷う時間があまり長くない傾向があります。幸田さんはいかがですか?

幸田氏:自分の人生なので、実現したいことをせずに死んでいく選択は私にはありえないです。せっかくいただいた命なので、やりたいことに素直でいたいですし、世の中の役に立ちたいですね。

人にはそれぞれ授かった才能があるはずで、それを生かしてできるだけいろいろな人にギブしていくことが生き方として自然だと考えています。だから、何かやりたいことがあって、それが人の役に立てることなら迷わずGOです。

 

瀬田:本当にそうですよね。私もとても、共感します。

ただ、組織の中で働いている多くの方は、自分で大きな物事を意思決定する機会が少ない場合があります。

また、これまで私が出会った素晴らしいリーダーの方々は、それぞれに使命感をお持ちで、命を削って全力を尽くしているという共通点があります。その強さがどこからくるのか、源泉は人それぞれですが、とにかく力強く、情熱的で、魅力溢れる方々です。みんなが、そんな風に力強く生きられたら、世界はもっと元気になるでしょうね。

 

幸田氏:私は日本の組織で働いたことがないのですが、たぶん組織では役に立たないです。書類のホッチキス止めもちゃんとできないですし、目的地にすんなり辿り着けたことがありません。だから、会社に就職しても役に立てる気がしないんです。

そういった意味では、自信を持てることは人それぞれですし、組織で働く方は組織に適応する能力をもっていて、うらやましいです。

 

瀬田:たしかにそうですね。人には得手不得手がありますし、ご自身の強みを生かす仕事をしている方は、どんな選択でも、それほど迷わずに決断できる傾向があるように思います。

長いものに巻かれる日常からのリセット法

瀬田:バッグをデザインされるときは、どんな風に発想されていますか?

 

幸田氏:自分の中にある「このデザインが正しい」という物差しで判断しているので、デザインを決めるときはあまり迷わないですね。作りたいものは明確です。これがいいという自分の思い込みなので、合っているかどうかはわかりません。

瀬田:そういった感性を磨くときには、どんなものからインスピレーションを得られていますか?

 

幸田氏:アートは好きですね。気になる展示があれば、時間を見つけてすぐに観に行きます。

 

瀬田:アイデアはいつ降りてくることが多いですか?

 

幸田氏:あまり決まったタイミングはないのですが、意識して海に行くようにしています。私は神戸の海辺の近くの出身なんです。月に1〜2回は神戸に帰って、海の前で何もしない時間を過ごします。ただ海を眺めながら、自分に必要なものを残していく時間です。

東京の生活はインプットが多くて、素敵な方とも出会えて気に入っているのですが、インプットし続けている状態です。でも、たくさんのものに影響されて長いものに巻かれていると世の中の平均値に自分が寄ってしまうので、定期的に自分に戻る時間を取るようにしています。

 

瀬田:とても興味深いお話です。人は長いものに巻かれ続けるというコンテクストの中に長くいると、主体的に物事を決めたり、行動したりしづらい状態になっていきます。そのコンテクストにある矛盾や葛藤と向き合うことができても、実際は組織が決めたことに従わざるを得ないと、結局自分の意見や考えが後回しになってしまうんですよね。こうした状況に適応し続けると、いつの間にか自分で決めることが苦手になってしまうことがあります。

 

幸田氏:そうなんですね。私にとっては長いものに巻かれずに、自分に戻るために必要なのが海なんですよね。自分の人生も永遠ではないし、地球から見たらちっぽけな存在だけど、せっかくの命を生かして死んでいこうと思える時間です。

海でリセットしてゼロに戻った自分が、今の環境で何ができるかを考える習慣になっています。

他人基準の物差しではなく、自分基準の物差しで生きる

瀬田:今までの人生で、自信をなくしてしまうような出来事を体験したことはありますか?

幸田氏:自信って常にあるものですか?最近は自己肯定感をもつべきと言われていますけど、私はそれほど自己肯定感が強くないから頑張れているのかもしれないですね。そんなに自信はないです。

 

瀬田:前提として「自信はそんなに簡単につくものじゃない、ないから頑張れる」というのはすごくシンプルで、共感できる考え方ですね。幸田さんらしいです!多くの人が、自分に自信がないことに悩んでループにはまってしまっている気がします。

 

幸田氏:自信って人と比べて感じている人が多い気がします。長いものに巻かれて自分で勝手に物差しを作ってしまい、そこに届かないから自信をなくしてしまうのではないでしょうか。

私も長いものに巻かれていますし、人と比べて何か足りないと感じることもあります。でも、そんなときは海に行ってリセットして、本当の自分の物差しを確認する作業をするようにしています。

健康でご飯も食べられて、職業の選択の自由があるのに、なぜ自信がないんだろう。感謝しか残らないなといつも思います。

 

瀬田:そうですね。人と比較する思考が強ければ強いほど、自信がないことを辛く感じてしまう傾向があります。

 

幸田氏:人間は社会的な動物なので、どうしても平均値を取ろうとしますよね。それを理解した上で、自分の幸せは人の物差しでは絶対に実現できないと考えることが大事なのかもしれません。

ちょっと偉そうに聞こえるかもしれないですけど、勝手につくった他人基準の物差しで自分を測っている以上、幸せを感じるのは難しいですよね。

瀬田:自分がいつのまにか作ってしまった他人基準の物差しで物事を測っていないか、気づくことが大事なんですよね。多くの企業の人材を研修する側から見ていて感じるのは、長いものに巻かれる経験が長くなるほど、鎧を着てやり過ごす状態になっていることです。

そうした中でもリーダーの立場におられる方は、自分が憧れるリーダーのようになろうとして、まず模倣から入ることが多いです。でも、違う人間なので完全な模倣は難しいですよね。人真似ではなく自分らしくあっていいのですが、そこに気づいていない場合があります。

 

幸田氏:自分を忘れていってしまうのは、とてももったいないです。自分の人生を他人っぽく生きて、違和感をおぼえているのは、よくないことですね…。

少しテーマとずれるかもしれないですが、長いものに巻かれる環境を他にも作ってみるのはどうですか?

仕事の場は自分の常識になっていき、フィットする自分を作っていってしまうのはしょうがないことなので、自分の長所を見てくれる別の場所があるといいんじゃないでしょうか。料理がうまい、手先が器用、視力がいい、見た目が美しい、長所はなんでもいいし色々あります。仕事とは違う、自分の別の価値を実感できる居場所があれば、別の物差しで自分を測れます。

仕事で認めてもらえなかったとしても、違う場所で認めてもらえていれば、自分らしさを失わずにいられる気がします。

 

瀬田:そうですね。人の物差しで自分を測っているから苦しくなるのだと思います。自分の物差しを持つことができれば、物の見方や捉え方はいずれ統合されて、自分らしさの一部になっていきます。

クオリティが高く、サステナブルな「MADE IN JAPAN」のモノづくりにこだわる

瀬田:FUMIKODAのバッグを通じて、社会にどんなメッセージを届けたいと思っていますか?

 

幸田氏:私がバッグつくりで目指しているのは、自信をもって働ける機能的で美しいバッグを働く方たちに届けることです。

また、衰退しつつある日本のものづくり産業を大切にしていきたいと思っています。私もこの業界に入るまではわかっていなかったのですが、日本の職人さんが作るものはクオリティが高く、心配なく使えるよいものですし、持っていて気持ちがいいです。だから、FUMIKODAは「MADE IN JAPAN」にこだわっています。

そして、FUMIKODAで使用している素材は本革のように見えますが、実は国産の高級車の内装用に開発された人工皮革です。耐久性と軽さと質感を突き詰めて作られた日本の技術力の結晶です。長く使っていただけてサステナブルです。

FUMIKODAのバッグの素材は日本国内で生産されていて、国内工場で縫製をしているのでCO₂排出量も少ないです。耐久性も高いので安心して、仕事に持っていけます。小さなブランドなので業界を救うことまで大それたことはできませんが、日本の伝統工芸やモノづくりの素晴らしさも知っていただきたいと思います。

 

瀬田:質感が上品で、想像以上に軽いリュックで驚きました。

 

幸田氏:FUMIKODAを愛用してくださっているのはパワーウーマンの方が多いです。仕事ができるだけでなく、日本の女性活躍を推進していたり、モノづくり産業をどうにかしなければと行動を起こしていたりする社会課題への意識が高い方々ばかりです。

2025年にはお客様が『FUMIBLUE』というブランドのファンクラブを立ち上げてくださいました。FUMIKODAを皆さんで持ってくださるだけでなく、FUMIKODAを通じて女性活躍の躍進やサステナブルなものづくりを実現させていこうという活動をしてくださっています。

こんな風に、バッグを作ったことによって、少しずつですが社会に影響を与えられている気がしてうれしいです。

瀬田:FUMIKODAのバッグをもつことで自信を持てたり、勇気を持てたり、もっとたくましく楽しく生きるためのエネルギーになっているのはすてきですね。モノづくりにはそういった力がありますし、幸田さんの想いがバッグを通じて、さまざまな女性たちに伝わっていくことが素晴らしいです。社会貢献にも通じていますよね。

 

幸田氏:そう思っていただけたら、うれしいです。

 

瀬田:幸田さんのお話を聞いて、人間にとって自分基準の物差しを持ち続けることの大切さを改めて実感しました。幸田さんの在り方そのものが、多くの人に勇気を与えると感じます。本日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございました。

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