チームボックスの推進する女性リーダー育成プロジェクト「Project TAO(プロジェクト タオ)」。社会や組織の変化を恐れず、生き生きと活躍できる女性リーダーの輩出促進を目的とした取り組みです。
「TAO」に込められた意味のひとつは「道」。私たちが進むべき道を学ぶケーススタディとして、リーダーシップを発揮する女性にお話を伺い、2つ目の意味である「先達からのタスキがけ」として次世代へとバトンを渡します。
今回は、Ideal Leaders株式会社の創業メンバーである丹羽 真理さんにお話を聞きます。CHO (Chief Happiness Officer) として「働く人のハピネス向上」をミッションとする丹羽さんは、昨今注目されるウェルビーイング経営の先駆者です。そのキャリアと選択をひとつひとつ伺うと、唯一無二の女性リーダーからしか聞けない金言をいただけるインタビューになりました。
瀬田 千恵子(以下、瀬田):まずは、丹羽さんのキャリアについてお伺いします。野村総合研究所の社内ベンチャーに参画されてから、今の会社「Ideal Leaders」を創業されるまでのストーリーをお聞きかせください。
丹羽 真理 様(以下、丹羽氏):私は2007年に野村総合研究所にコンサルタントとして入社しました。通常のコンサルタント案件に携わっていたのですが、入社4年目に人事部に異動になって。
人事の仕事を通して、人や組織に関わる仕事がすごく面白いなと感じていたところに、人事がテーマのコンサルティング案件が多い現場に戻りました。その時、隣のグループだったのが、社内ベンチャー「IDELEA」だったんです。2011年ほどのことだと思います。
「IDELEA」はIdeal Leadersの前身となる、野村総合研究所の社内ベンチャーとしてやっていた会社です。これを立ち上げたのは現在Ideal Leadersの代表をしている永井でした。(永井 恒男氏)
永井も野村総研のコンサルタントで、社内の新規事業提案制度に手を挙げる形でスタートし、経営者向けにエグゼクティブコーチングや組織開発を提供する事業をやっていました。
瀬田:どのように興味を持たれたのでしょうか?
丹羽氏:きっかけとしては「隣のグループ、やけに楽しそうに仕事しているな」と感じていたんですよね。社員旅行で話す機会があって、業務内容を聞いたらすごく面白そうで。兼務で携わらせてもらったら、やっぱりすごく面白い。そこから正式に希望して異動させてもらいました。
その後、2015年に永井が独立することになりました。私は異動したてだったので「え、独立?」「なになに?」みたいな感じでしたが。笑
でも、私もその後すぐに、一緒に独立することを決意していました。
瀬田:そうしてできたのが「Ideal Leaders」ということですね。独立した決意は、即決だったように伺えました。その時は直感が働いた感じでしたか?
丹羽氏:もちろん、説明や話し合いの場をしっかり設けたうえですが、そんなに悩まなかったですね。もともと私は大事な決め事も直感でするタイプなんです。そっちの方が楽しそうだな、というのが大きかったですね。
別にもともと起業家になりたいと考えているタイプでもなかったのですが、こんなチャンスは滅多にありませんし、自然と気持ちが向いていました。
瀬田:このProject TAOの対談でお話を聞かせていただくのですが、直感の決断がしっかりとはまったという方が多いんですよね。自分で自分のキャリアを切り拓く力のある方は、決断の思い切りがとても良いように感じます。
丹羽氏:よく考えたとしても何が正解かなんて絶対分からないですし、どちらが楽しそうか、自分の感じたままに従ってみるのも良いと思っています。仮に失敗したとしても、その時の自分の直感が違ったねっていうだけですしね。
瀬田:その選択も自分の責任ですからね。
丹羽氏:そうそう、そう思います。今考えても、あまり悩まなかったんですよね。
瀬田:丹羽さんは2018年に著書「パーパス・マネジメント ー社員の幸せを大切にする経営」(クロスメディア・パブリッシング、2018年)を出版されていますね。私は、もう何年も前に付箋を貼りまくって、何度も読み返しました。
出版当時の日本は、「パーパス」という言葉がまだ言われていなかったですし、従業員の「幸せ、幸福」についての観点はそれほど根付いていませんでした。このトピックについて学ぼうと考えられたのはどうしてなのでしょうか?
丹羽氏:この本はタイトルこそ「パーパス・マネジメント」と冠していますが、読んでいただくと分かる通り、実はパーパスについてそんなに深くは触れていないんですよね。「社員の幸せ」がメインテーマなんです。
企画・執筆をしていた時は「チーフ・ハピネス・オフィサー」を前面に押し出した本にしようと考えていたのですが、出版社の方が「パーパス・マネジメントというタイトルが良い」とおっしゃって。後にパーパスの考え方が浸透してきたので、結果的にはそれがめちゃめちゃ良かったんです。
瀬田:当初はCHO、チーフハピネスオフィサーの本だったのですね。この点についても詳しく伺いたいです。
丹羽氏:私がCHO(チーフ・ハピネス・オフィサー)を名乗っているのは2015年、野村総研から独立した時からです。自分で好きな役職をつけよう、という話になり、私はハピネスがいい、とCHOにすることになりました。
原体験として、野村総研当時、社内ベンチャーのIDELEAがめちゃめちゃ楽しそうに仕事をしていて、周囲に笑い声がうるさいと叱られるほどだった、というエピソードがあります。同時に、IDELEAは業績もすごく良かったんですよね。メンバー1人1人のやりたいことや強みを活かして運営をしていたので、皆やりがいを感じながらパフォーマンスも出せている組織でした。
しかし一方で、必死な顔をしてやってるけど、やりがいを感じられない人がいたり、やっている量の割にパフォーマンスは上がらない、という世界もありますよね。そしてそれが一般的と言われたりもしています。
この時から、メンバーが幸せを感じながら働いた方が、個人も組織もパフォーマンスにつながりやすいのでは、と思っていました。そう考えている時に、海外でCHOのポジションを設けている企業がある、という記事を読んで名乗ってみたいと考えていました。
瀬田:その当時からそんな風に考えておられたのですね。すごい見立て、先見の明ですね!
丹羽氏:最近は、チーフ・ウェルビーイング・オフィサーのポジションを設けている会社が出てきていますよね。今はウェルビーイングという言葉ですが、その当時はハピネスという表現でした。
瀬田:ようやくウェルビーイング経営が意識され始めてきた日本ですが、丹羽さんの目には、出版当時から現在までの変化はどう映っているでしょうか。
丹羽氏:本を出してから6年ほど経ち、大きく変化を感じています。当時はパーパスやウェルビーイングという言葉を自体知られていなかったですし、幸せという言葉を持ち出すと「宗教ですか?」という反応を受けたりしていたので。
瀬田:なんだか「スピリチュアルなもの」という扱われ方でしたよね。今や人材育成や組織開発においてもスピリチュアリティ(精神性)はものすごく大事なものですけど。
丹羽氏:そうなんですよね。というところから、日々どこかで用語を目にするようになっているのはすごく大きな変化ですよね。
しかしまだまだと感じるところも多くあります。
ウェルビーイングというと、社員に優しくすること、健康経営のこと、と安易に理解されてしまい、利益を追求するのと逆向きの話だと解釈されてしまっているケースが多く見られます。
ウェルビーイングは利益と同じ方向を向いている話です。むしろ、その方が利益に貢献度が高いから推進しよう、という話であって、優しくゆとりを持って働こう、と言っているのではないんですよね。これが、特に上の世代に伝わりにくいと感じているところです。
瀬田:社員の働きやすさを追求する取り組み、のような誤解があるのですね。
丹羽氏:社内でも「Well-being for Performance」という表現と意識をもっと強調していかなくては、とよく話します。パフォーマンスのためのウェルビーイングだ、という部分の浸透を促進しなくてはですね。
瀬田:目的を正しく捉えなくてはですよね。女性活躍推進も同じように誤解があるように感じます。「女性の働き方や生き方」が大事なんですけど、言葉の捉え方に誤解があって、「女性の就業のしやすさ」にフォーカスされてしまうこともしばしばあります。そもそもすでに、活躍している女性はたくさんいますからね。
こうした捉え方が違う、よく起こりがちなこのギャップをどのように埋めていけば良いのでしょうか。
丹羽氏:同じように感じますし、私も教えて欲しいです。笑 ですが、追求すべき問題ですね。
前述のウェルビーイングの誤解で例に挙げたのは、上の世代との認識のズレですが、そのケースにおいて感じるのは、真っ向からそのまま「考え方が違うんです」と伝えても距離が開くだけなのかなということですね。
今の日本の状況って、上の世代の方々が必死に働いて、やりがいを感じる暇もなくやって来たからこそあるものですよね。ニューヨークでCHO養成講座に参加した時に「日本!過労死の国だね」と言われたほど。
その努力へのリスペクトは前提として持つべきものなので、このギャップがあることを認識することがスタートだと思います。
瀬田:必死の働きの結果の経済成長ですよね。その世代と、ジェンダーギャップなど当たり前に浸透している世代の価値観がミックスされているのが今で、過渡期になっているということでしょうか。
丹羽氏:そうですね。そしてどんどんまた更新されていくものなので、単純に解決しきるものではないと思っています。
瀬田:社会で女性が担う役割が増えた今、女性がウェルビーイングに働くにはどんなことを意識するのが大切だと思われますか?
丹羽氏:わたしは女性活躍の専門家ではないので、あくまで個人的な所感ですが、主体的な視点を持つことは重要だと思っています。
たとえば、何をやるにしても会社に言われたから、誰かのせいで、と他責視点でいるとどんな状況であっても辛いですよね。そうではなく、では自分ができることは、やるべきなのは、というマインドで捉えると、幸福を感じる度合が変わってくると思うんです。
瀬田:まさに丹羽さんご自身が、自分の手でキャリアを切り拓いて道を歩んで来られましたよね。
プライベートでは結婚・出産を経ておられますが、それによる変化は何かありましたか。
丹羽氏:結婚はあまり影響はありませんでしたが、出産後はやはり変化がありました。妊娠前と同じ生活はできませんでしたし、働く時間も限られましたね。でも、自分としては両方のタイプの人生を体験できて良かったですし、仕事以外にも人生があるのだと、発見できて良かったと捉えています。
瀬田:丹羽さんを見ていて、今日お話ししていても感じるのは、いつも笑顔で快活、パワフルで、率直に格好いいなと感じます。今おっしゃったような、ポジティブに捉える力をお持ちなのだなと。
丹羽氏:どんなネガティブな状況でも、その中にあるはずの小さなポジティブを捉えて目を向けることはコツですよね。そこをきっかけにポジティブな状況に変化していくと思います。
けど、ポジティブなことを捉えたり変換するのは結構トレーニングが必要です。日々小さいことでも良いポイント探しをやっていると、視点が鍛えられて自然と身に付く面もありますね。
瀬田:選択的注意と言われる、どんなに小さなことでもポジティブなことに注意を向け続けることですよね。ハピネスマネジメントについて学んだことが、丹羽さんの人生に影響を与えている面があるでしょうか?
丹羽氏:特に組織において、何を意識したら良いか、というのは活かせたと感じます。でも、基本的には私は元々こういう人、とも感じます。
瀬田:幸せで良い状態にあることそのものが、丹羽さんらしさだということですね。ここまで来られる中で、自分らしさに変化はあったでしょうか?
丹羽氏:あまり変化は感じませんね。
瀬田:やっぱり。丹羽さんは、常に一貫したブレない姿勢をお持ちだなあと感じます。
丹羽氏:仕事で言うと、野村総研のような堅いリサーチやコンサルよりは、今のスタイルが合っているとは感じます。そのころ、元気があり過ぎたのかよく「声がうるさい」と言われていましたし。
仕事を通して自己理解が深まった面があるかもしれません。それで自分にフィットするものを自然と選択できるようになっているのはありそうですね。強く意識していたわけではありませんが、自分が感じる「楽しそう」「得意だ」と感じることを選び取り、大切にしてきた結果でしょうか。
瀬田:一方で、丹羽さんのように自然体で自分らしく生きることが、なかなか難しいと感じている人が多くいらっしゃると思います。そう考えておられる方に何かお伝えするとしたら、どんな言葉をかけますか。
丹羽氏:そうですね。でも、「自分らしく生きること」に目を向け過ぎなくても良いのではないでしょうか。それが目的ではないんですよね。
自分らしく生きるためにどうする、という訳ではなくて、自分にとって楽しいことやワクワクすることを選び取っているうち、結果として自分らしく生きていた、という順序なのかなと。キーワードとして取り上げられ過ぎと感じます。
瀬田:自分らしさは、自分らしくあることは、ありのままであることに過ぎないということですね。
丹羽:自分らしさとは何か、なんて、自分自身が一番理解しきれない気がします。色々な経験をしているうちに発見したり、変化していったりしますし。自分らしく生きることが目的にならないようにするのが良いんじゃないかと思いました。
瀬田:意識して考えることはすごく重要ですが、一方で結果としてそうなった自分を自分自身できちんと受け入れることも、大切なのかもしれないですね。最後にとても素敵な発見をいただきました。本日はありがとうございました。
文/橋尾 日登美